誤嚥(ごえん)について -2022年7月29日掲載-

高齢になって食事中にむせることが増えたり、食が細くなったりした場合、「飲み込む力」が低下しているかもしれません。飲み込む力、つまり「嚥下えんげ機能」が低下すると、「誤嚥ごえん」が起こりやすくなります。
誤嚥は「誤嚥性肺炎」を起こす原因にもなるため、放置するのは危険です。今回は誤嚥の原因や症状、予防のポイントについて解説します。

誤嚥とは

 誤嚥とは、飲み込んだ食べ物や唾液などが、食道ではなく気道(気管)に入ることをいいます。飲み込んだものが気管に入ること自体は若い健康な人でも起こりますが、通常はむせるなどしてすぐに体外へ排出されます。ところが高齢の人になると、ものを排出する力が弱まり、そのまま気道(気管)に入り込んでしまうことがあります。

誤嚥の原因は嚥下機能の低下

年齢を重ねるとともに、ものを飲み込むときに使う筋力が衰えると、飲み込む機能(嚥下機能)だけでなく、吐き出す機能も低下します。これが高齢者に誤嚥が多い原因です。
また、認知機能の低下やうつ症状が誤嚥の遠因であるケースも見受けられます。
なお、高齢者の誤嚥は食事中だけでなく、就寝中に起こる場合もあります。口にたまった唾液や、逆流した胃の内容物が気道(気管)に入ることがあるからです。

誤嚥が起きた時の症状と対応

誤嚥(ごえん)について
誤嚥の主な症状は、むせこみです。咳をすることで、気管に入った異物を外へ出そうとするためです。
ただし、高齢者の誤嚥では気道防御反射が低下しているため、誤嚥が起こっている最中も咳が出ないケースがあります。誤嚥が起こっていても気づかない可能性が高いため、高齢者の食事中は周囲が注意深く見守る必要があるでしょう。
食事中やその前後に以下のような症状が出る場合は嚥下機能に問題が出ていたり、誤嚥の可能性があります。

  • 痰が絡みやすい
  • 食事中や食後に咳き込む(誤嚥してもむせないことがある)
  • 食事に時間がかかる
  • 飲み込む前後にむせることがある
  • 飲食前後の呼吸音や声質の変化(食後にガラガラ声・かすれ声になる、ゴロゴロ・グーなど低い音が聞こえる)
  • 食事量が減る
  • 食べ物が口に残っている
  • 体重の減少など体調の変化

食事中にむせたり、咳が出たりした場合は、一度食事を中断しましょう。誤嚥が起こっている可能性があるので、前かがみの姿勢で咳をしてもらいます。ゆっくり背中をさすってあげるのも効果的です。落ち着きを取り戻せるように深呼吸をして、症状が治まってから食事を再開します。なお、水やお茶は、症状が出ているときに飲むと逆効果になることがあるため控えてください。
なお、咳以外の症状も気になる場合は、その場での対処は難しいかもしれません。病院で嚥下機能の検査を受けましょう。

誤嚥によるリスク

誤嚥は命にかかわるトラブルを引き起こします。「むせて苦しい」だけでは済まない、誤嚥のリスクを理解しておきましょう。

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎とは、誤嚥が原因で起こる肺炎のことです。食べ物や唾液、あるいは口腔内の細菌が気管や肺に入ってしまうと起こります。誤嚥性肺炎には、口内細菌の増殖、免疫力の低下、そして誤嚥の3つが関わっています。そのため、口腔ケアなどで口内細菌を減らし、栄養状態をよくして免疫力を高めることが重要です。
通常の肺炎では、高熱や咳といった症状が出ますが、誤嚥性肺炎はこれらの症状が出ない場合もあります。特に高齢者は「むせこみや発熱がないから大丈夫だろう」と油断しないことが大切です。

窒息

誤嚥したものを吐き出せずに、激しくむせこんでしまうと、呼吸困難に陥ることがあります。そのままにしておくと命にかかわるため、すぐに対処してください。
詰まったものを引っ張り出したり、背中を叩いたりすることで改善する例もありますが、難しそうなときや、症状が強く出ているときは、すぐに救急車を呼んでください。

誤嚥を起こさないための対策・予防法

誤嚥や、誤嚥を原因としたトラブルを予防するための対策をいくつか紹介します。

誤嚥しやすい食材を控える

嚥下機能の低下を感じたら、誤嚥しやすい食材は控えましょう。

  • 口内や喉にへばりつきやすい食品
    餅やお団子、焼きのり、わかめ、青菜、ウエハース、モナカの皮など。
  • 歯で噛み切るのが難しい食品
    タコやイカ、こんにゃくなど。

飲み込みやすい調理を心がける

飲み込みやすい食材や調理法を意識したメニューを用意するようにしましょう。「お餅を避ける」「食材を細かく刻む」といった対処に加え、ペースト状にしたり、スープや飲み物にとろみをつけて、飲み込みやすくするのもおすすめです。

  • 水分が少なく乾燥した食品
    パサパサしたパンやイモ類、ポップコーン、ゆで卵の黄身などは、潰して水分を足すなどの工夫をしましょう。
  • 口のなかで細かく分解される食品
    ひじきやパラパラのひき肉、おからなどはまとまりがよくなるようにとろみをつけるといった工夫をしましょう。

誤嚥が起こりづらい姿勢で食事する

食事は普段通りの慣れた姿勢で行うのが基本です。椅子には深めに腰かけて、足をきちんと床につけ、姿勢よく食べましょう。また、逆流による誤嚥を防止するため、食後2~3時間は座った姿勢で過ごすとよいでしょう。

口内を常に清潔に保つ

誤嚥をしたときのリスクを減らすために、口の中を常に清潔に保ちましょう。食事前後や寝る前の歯磨きを習慣づけてください。歯磨きが難しい場合、お茶を飲むと口の中を清潔に保ちやすくなります。

誤嚥は、起こった後で対処するのではなく、そもそも起こさないことが大切です。特に高齢者の食事については周りの方が、十分に注意するようにしましょう。