薬剤師活用のススメ -2011年5月31日掲載-

患者さまの知識向上

世間では最近、健康に対しての関心がとても高まっています。ご近所・親戚・友人・知人、顔を見れば「元気?体調はどう?」「○○が体に良いらしいわよ~」。テレビをつければ、人気タレントが楽しく分かりやすく病気や生活習慣に関して教えてくれ、雑誌を開けば購読者年齢に合わせた疾患や健康管理特集が組まれています。

薬剤師という仕事をしている中でも、時代の流れを実感します。10年程前はほとんどの方が「お医者さんが私の身体のことを考えて出してくださったお薬だから信用して飲んでいます。」と、十数種類もあるお薬の内容を知ろうともせず、疑問にも思わずパカッと口に放りこんでいました。それが今ではご高齢の方含め、ひとつひとつのお薬の効果はもちろん、副作用などの知識取得にも積極的なのには驚きます。

この知識向上傾向の中で、一部の病院薬と相性の悪い食品やサプリメントが存在することはご存知の方も多いと思います。有名なものとしては、グレープフルーツやセントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウとも言われます)などが挙げられます。お茶と鉄欠乏性貧血のお薬との相性も悪いと言われていましたが、お茶に邪魔されない優秀構造をしたお薬もあるので、一概にそうとも言い切れません。

では、私の飲んでいるお薬は?と不安になる方もいる一方で、自分の飲んでいるお薬の事くらいきちんと勉強しているわ!という方もいらっしゃいます。

「物質名」「成分名」までご存じですか?


かつて、こういう経験をしました。

ワルファリンというお薬の服用を開始した患者さんがいらっしゃいました。

ワルファリンは、心臓弁やバイパス(十分な酸素と栄養を運搬できなくなった狭い血管のかわりとなる血管ルートを作る)術後や、心臓や身体の奥の血管でできた血栓が、脳や肺に運ばれてそこで詰まってしまう脳塞栓・肺塞栓の恐れがある方などに処方される、血液をサラサラ状にするお薬です。

血液が固まる過程でビタミンKが一役かっているのですが、ワルファリンはこのビタミンKを邪魔します。よって、口からせっせとビタミンK食品を体内に取り込んでしまうと、本剤を飲んでいる意味が薄れます。

以上の理由より、ワルファリンを服用している方は、単位あたりのビタミンK含有量が多い納豆、緑黄色野菜を凝縮したクロレラなどのサプリメントは摂取禁止となります。

その患者さんは、ご自身の知識に強く自信を持っていらっしゃる勉強家でした。ハイレベルな問いかけに私は毎回ドキドキしていました。長年続けているサプリメントがありましたが、その中にはビタミンKは入ってないよとご自身で成分表を確認し教えてくださいました。もちろん納豆も摂取していませんし、ベジタリアンでもありません。ですが、上がるべきサラサラ度がなかなか思うように上がらないんです。担当医も首をかしげておられました。

そんな悩める日々の中、もしや!?とひとつの疑いが頭に浮かびました。そしてサプリメントの瓶を見せてくださいと懇願しました。すると書いてあったんです!不本意なご様子で差し出してくださった瓶の成分表に『フィトナジオン』と。=ビタミンK(K1)です。

やっぱり専門家に

薬剤師は個々の経験・勉強量にもよりますが、薬だけでなく疾患や臨床検査値に関しても広く浅くではありますが教育を受け、猛勉強の末に国家試験をパスした専門職です。よって、1ルートからではなく、多方面から考えを攻めていくことができます。

こんなこと質問すると迷惑じゃないかしら?とおっしゃる方も多いですが、課題を与えられることで薬剤師は成長します。もちろん専門医に相談するのが一番ですが、常に重症患者さんや手術などを抱えていらっしゃる医師に、気軽には質問しにくい心理が働いてしまうところです。

一方で、調剤薬局・ドラッグストアは、コンビニエンスストア並みに街中に点在しています。飛び込み質問でもいいんです。そういえば先日、携帯電話の使い方を質問しに来られた方がいらっしゃいました。さすがに苦笑しましたが、それくらい気軽に敷居をまたいでいただきたいです。

知識に自信のある方もそうでない方も、身近に存在する相談相手として、遠慮なく我々を活用して下さると嬉しいです。