マダニによる感染症とその対策 -2017年9月29日掲載-

近年、マダニを媒介とする感染症が増加しており、時に重症化する例もあります。感染症が増加している要因としては、人がアウトドアのレジャーやリゾート開発でマダニに出会う機会が増加したこと、減反政策、農耕地の荒廃によるマダニ生息地の増加、狩猟の抑制によるマダニの吸血源となる野生鳥獣の増加といったことがあげられます。(出所:日本皮膚科学会)

そこで、病気を正しく知って感染症から身を守るために、適切な予防と行動をとることが重要です。

マダニとは

蛛形綱マダニ亜目に属し、マダニ属、キララマダニ属、チマダニ属、カクマダニ属が含まれ、一般に体の表面が固いためhard tickと呼ばれます。春から秋(3~11月)にかけて活動が活発になりますが、四季を通じて活動する種類もおり、主に山野に生息しています。日本では47種の生息が確認されています。

アトピー性皮膚炎の悪化要因のひとつである家ダニとは生態は全く異なり、大きさもはるかに大きく体長2~30mmに及びます。

多くて一生に3度、主に小動物(ノネズミ、小鳥)から吸血し、幼虫→若虫→成虫へと脱皮します。雌成虫は産卵のためにさらに中、大動物(ウサギ、シカなど)へ寄生吸血します。
→その際に、たまたま人間が接触するとマダニに刺されることがあります。

マダニ媒介感染症

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

2013年1月、SFTSの患者(2012年秋に死亡)が国内で初めて確認されて以降、毎年60名前後の患者が報告されています。

SFTSウイルス保有のマダニに刺されてから6日~2週間程度で起こる、原因不明の発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)が中心的な症状です。時に頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、出血症状(紫斑、下血)など様々な症状を引き起こし、重症化して命にかかわることもあります。(致死率は10~30%程度)

しかし、地域や季節によりますが、SFTSウイルスを保持しているマダニは0~数%程であり、全てのマダニがウイルスを保持している訳ではありません。

これまでのところ、SFTS患者は西日本を中心に発生していますが、徐々に患者発生が確認された地域が広がっています。患者が報告されたことがある地域以外でもSFTSウイルスを保有するマダニや、感染した動物が見つかっています。

現時点では有効な治療法がなく、動物実験では効果が示されているウイルス薬はありますが、SFTS患者に対する治療効果は証明されていません。

日本紅斑熱

マダニに刺されてから、2~8日後に起こる、高熱、発疹、刺し口(ダニに刺された部分は赤く腫れ、中心部がかさぶたになる)が特徴的な症状です。

紅斑は高熱とともに四肢や体幹部に広がっていきます。紅斑は痒くなったり、痛くなったりすることはありませんが、治療が遅れれば重症化や命にかかわることがあります。(致死率0.96%)

病原体はリケッチアの一種リケッチア・ジャポニカであり、治療はテトラサイクリン系抗生物質が有効です。

本症を媒介するマダニは広く生息しており、発生地域は三重県が最多で、次いで広島県、和歌山県、熊本県、鹿児島県、愛媛県と続きます。西日本からの報告が多く、患者発生地域は広がっています。

ライム病

マダニに刺されてから、1~3週間後に刺された部分を中心に、特徴的な遊走性の紅斑がみられます。また、筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、倦怠感などのインフエンザに似た症状を伴うこともあります。症状が進むと病原体が全身性に拡がり、皮膚症状、神経症状、心疾患、眼症状、関節炎、筋肉炎など多様な症状が見られます。
ライム病の病原体となるボレリアには抗生物質が有効です。予後は比較的良好ですが、抗生物質の治療が遅れて、神経麻痺、慢性神経障害が残存する症例もあります。
マダニは本州中部以北の山間部に棲息し、北海道では平地でもよく見られます。ただし、一般家庭内のダニで感染することはないとされています。

マダニが吸血しやすい場所

マダニは最初に付着した部位に吸血するのではなく、這い回って吸血部位を探します。
マダニの種類によって好む部位が違います。

好む部位:顔、頭部、耳、首、上腕部、腹部、下半身(手首より先にダニが吸着した事例はありません)

マダニに刺されたら

  • ダニに刺されても、痛みや痒みはあまりなく、気づかないことが多いようです。野外活動後の着替え時などに、体にダニが吸着していないかどうかを確認してください。
  • ダニ類の多くは、長時間、時に10日間以上に及んで吸血します。吸血中のマダニを無理に取り除こうとすると、マダニの口器が皮膚の中に残り化膿したり、マダニの体液を逆流させたりしてしまうことがあるので、皮膚科等の医療機関で、マダニの除去や消毒など適切な処置を受けてください。
  • マダニに咬まれたら、数週間程度は体調の変化に注意し、発熱等の症状が認められた場合は、医療機関で診察を受けてください。

マダニから身を守る方法

  • 草の茂った、マダニの生息する可能性のある場所に入る場合には、長袖・長ズボンを着用し、サンダルのような肌を露出するようなものは履かないことなど、マダニに咬まれない予防措置を講じましょう。付着が確認できるよう、白系の服装が良いです。ズボンの裾は靴下の中に、シャツの裾はズボンの中にいれましょう。下半身をしっかり覆うことがポイントです。
  • マダニに対する忌避剤(虫よけ剤)が、2013年から新たに認可されました。
    現在は、「ディート」、「イカリジン」の2種類の有効成分の忌避剤が市販されています。
    忌避剤の使用でマダニの付着率は減少しますが、マダニの付着を完全に防ぐわけではありません。忌避剤を過信せず、様々な防護手段を組み合わせて対策を取ってください。
国内で入手できる忌避剤の種類と特徴
忌避剤 有効成分
含有率
分類 効力持続
時間
注意事項 特徴
ディート 5~10% 防除用
医薬部外品
1~2時間 6ヶ月未満児には使用禁止
  • 独特の匂い
  • べたつき感
  • プラスチック・化学繊維・皮革を腐食することもある
12% 防除用
医薬品
約3時間
高濃度製剤
30%
防除用
医薬品
約6時間 12歳未満には使用禁止
イカリジン 5% 防除用
医薬部外品
~6時間  
高濃度製剤
15%
防除用医薬品 6~8時間